親子〜おやじの子育て in Beijing〜

嫌な女に・・・

ソファでゴロリと眠ってしまった。
アーチャオの泣き声と、母ちゃんの「どうして叩いたの?ちんっ」の叱り声で目が覚める。

「どうして?」。問いかける母ちゃんに歯磨きをされながら、聞こえないふりのちん
アーチャオは頭に手をやり「ちーん、したのー」とべそをかいている。

ちんはどうやら母ちゃんには、ふざけた態度で通すようだ。

ソファから起き上がり、ちらり、ちんに目を向けると目が合った。
「よぅ、歯磨き終わったら、父ちゃんのとこ来いや」。
デスクの椅子に座りながらぼそりと“関西弁”で言い放つ。
こういうときの父ちゃんの言葉は、自分でも気になるぐらい柄が悪い。

洗面所に行ったまま、ちんは戻ってこない。
父ちゃんが洗面所に向かうと、洗面所でちんは突っ立て、父ちゃんのいるリビングを見ていた。
洗面所に5歩ほど歩み寄る父ちゃん。
下を向くちん
しゃがみこみ、「しばいた理由、あるんやろ。話聞くで」。

上目遣いで父ちゃんを見るちん。目が合う。

うっうっう、うー、うー。
ポロポロポロポロと頬に涙が伝う。
袖を握り締めて、涙をせわしなく拭くちん
泣き

父ちゃんの悪い口癖・・・
「男がそんぐらいのことで、泣くな」
の影響だ。涙を見せまい、泣き止もうと頑張るちん
ヒッヒッヒッヒ、と短い呼吸とともに、ちんの両肩が上下する。

このとき、父ちゃんはとっても反省した。
ちんにとって、父ちゃんはどんな存在か。痛いほどわかった。
小さいころの自分そっくりだ。

おやじが何よりも怖かった。
「男の癖に泣くな。悔しかったら・・・」
よく、そう言われた。
だから、涙をこらえるときに、激しい呼吸とともに両肩がヒックヒックする。
それをとめることが出来なくて・・・。
自分に悔しくなってくる。
そしたら、余計に悔し涙があふれ出る。
そんな思い出はたくさんある。


「ねぇ、ちん。父ちゃんはな、理由もなく、ちんがアーチャオを叩いたなんて思わないよ」
今度は目線を握ったちんの両手に向けて話す。
「理由があったんだよね。正直に言えばいいよ。ちんの気持ちを父ちゃんは知りたいだけだ」
顔の涙ぬぐってやると、少し呼吸が落ち着きだした。
「いいよ。急いで言わなくても」
目を見る。ちんも、やっと父ちゃんの目に視線を向けた。

「あのね、」
ふうっ、と一呼吸つくちん
「アーチャオが母ちゃんがお友達から借りた本(雑誌)をね、」
また、一呼吸おいて、ポツリと「破ったの」。
「はじめ、足を置いていて、『だめだよ』って足をどけようとしたら、
本をけって破ったん。だから、頭を叩いた」
言い終わると父ちゃんの目をじっと見つめるちん

「そうか。わかった。アーチャオはいけないね。
でも、ちんには賢い頭がある。日本語も、中国語も話せる
賢い頭やんか。言葉でアーチャオに教えてあげないと。叩いたの
は、やっぱりいけないと思うな、父ちゃんは」
頭を両手でなでてやると、『コクリ』と、ちんはうなずいた。
「理由を教えてくれてありがとう」
ぎゅっと、抱きしめてやる。

あー、ちんは父ちゃんがこんなに怖かったんだ。

そして、雑誌の破れを確認し、雑誌を手にアーチャオの元へ。
アーチャオは父ちゃんの顔を見るなり
「パンっ、ここ、ちん」と叩かれた頭に手を乗せて訴えかけてきた。

雑誌の破れた部分を見せて、「誰、これ破ったの?」とたずねる父ちゃん。

アーチャオは間髪いれずに「ちんっ!」と、すごい笑顔で兄ちゃんを指す。

「うそや。お前やろ。アーチャオや。ちゃうか?」と父ちゃんは指でアーチャオの胸をトントン。
「これ破ったから、兄ちゃんにここ叩かれたんやろ?」と、頭をポンポンとする。

約5秒・・・観念したか、笑顔は消えた。次の瞬間、

あ”、あ”、うわーん”””

泣き出すアーチャオ。でも、涙が出ていない。ちんのあの涙を見た後だけに
“うそ泣き”がバレバレだ。
しかし、怒れない。2歳ということもある。
それ以上にアーチャオは知っている。

「私が泣いたら、もう父ちゃんは私を叱れない」と。

「このチビめー」。でも、ウルウルの目で見上げられると・・・怒れない。

ちんが父ちゃんをじっと見つめている。

「いけませんよ。破ったりしたら。だめだよ」
と泣いたふりのアーチャオの目を見て言い聞かせた。

ちん、これでアーチャオはわかったと思うよ。こういう風に言葉で教えるんだよ。わかる?」。内心、敗北感でいっぱいな父ちゃん。

そんな内心を見抜かれたか・・・じっと父ちゃんを見つめるちん
3秒ほど間をおいて、小さくうなずいてくれた。

一部始終を見ていた母ちゃんの“ケラケラ”笑い声が部屋中に響いていた。

うそ泣き・・・女の武器を使う2歳長女に、
「嫌な女になるんじゃねーか」と将来に不安と危機感を抱く父ちゃんである。


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