親子〜おやじの子育て in Beijing〜

乗り越える力

子供ができなかった事をできるようにする。
子供の個性もあるかもしれないが、
親の力で、それをしようとするのは良くない。

ちん君は、できないことに直面したら、自分で考えるタイプのようだ。
父ちゃんは、アドバイスをする。
あとは、自分で考えさせる。
やるも、やらないも、全てはちん君に任せる。

ちん君は、すぐに取り組むこともあれば、1週間、2週間後に取り組み始める
こともある。しかし、これまでのちん君を観察してきて感じるのは、
考える時間、決断する時間を子供に用意することの大切さだ。

アドバイスをしてしまうと、ついつい、子供にはすぐにアドバイス通りの動き、行動を
期待してしまう。

しかし、それはいけない。
すぐに行動する場合もあれば、子供は自分でアドバイスを消化したり、
直面しているできない状況を分析する時間が必要な場合があるようだ。

ちん君と今日、水泳に行ってそれを感じた。
縦18メートルのスイミングプール。これまで、潜水で泳ぎきったことがない
ちん君。今日も自分で挑戦を始めたが10メートル時点で失敗した。

ちん君: あかん、やっぱりでけへん。息がしんどい。

首をかしげながら、つぶやいている。

父ちゃん: すぐあきらめるのはあかんやろ。

ちん君: 子供にはしんどいの。父ちゃんより体ちいさいんや。
真剣に怒っていた。

再びトライしたが、だめだった。悔しそうだ。

父ちゃん: アドバイスするよ。父ちゃんも一緒にもぐるから、もう一回挑戦してみ。

ちん君は、コクリとうなずいて、三度もぐった。

足はバタ足だが、平泳ぎでの腕のかきが小さい。手が前に伸びていない。

やはり、10メートル地点で、浮かび上がった。

こちらを見つめるちん君に、

父ちゃん: 原因は腕のかき。腕が前に伸びてないよ。かきが小さいから、前に進まないんやな。あと、もぐる前の準備がよくないな。体中に酸素を送ってから、最後に大きく息を吸ってもぐらないとあかんよ。小さく何度も息を吸って、吐いて、序所に大きく吸って肺の中に空気をためる。そうすれば、体の隅々まで酸素が届いてからもぐれるから、途中で苦しくなくなるよ。

うなずいたちん君だが、そのままプールを上がった。しばらくジャグジーで体を温めていた。
すぐに、アドバイス通りに挑戦しようとはしなかった。

父ちゃん: 大丈夫。絶対できるよ。

それだけ伝えて、ほおって置いた。

しばらくして、プールに入ってきた。目が先ほどと違う。やる気に燃えている。
水中眼鏡をかけて、小さく呼吸を繰り返し、最後に大きく吸い込むと、潜水を始めた。
急いで、父ちゃんも後を追って潜る。

小さな体から大きく前へ、腕を伸ばして、水をかいている。
10メートルは通過。13メートルぐらいで、少し体が浮いてくる。15メートル。明らかに手をかくスピードが速い。かきも小さい。苦しいのだ。前に出て、目の前に迫った壁を指差し、無言で「がんばれ」の合図を送る。ほほをいっぱいに膨らませて、なお手を前に出すちん君。2かきがんばった。そして、とうとう18メートルを潜水で泳ぎきった。

水面に上がったちん君は、ゼェーゼェー言いながらも、満面の笑みだ。

父ちゃん: すごいやないか。驚いたぞ。やったな。

右手を上げて、“パチンッ”とハイタッチを交わす。

ちん君: 壁が見えたら苦しくなくなった。最後は息吐いたらアカンと思ってん。だから吐かんと我慢したんやで。

アドバイスしていない事を言っていた。
アドバイスを聞いてから、一人自分で考えたのだろう。
最後の息を吐いてしまうと、泳げなくなることを。だから、最後はほっぺたをパンパンに膨らませて、息を吐くのを我慢していたようだ。

子供はいつも真剣だ。
その邪魔を、親がしてはいけない。
子供が自分のことを考える時間に、親が言葉を挟んではいけない。
アドバイスは必要だが、それが全てではない。
だから、見守ることが大事だ。

時間は少しかかるかもしれない。
しかし、その時間は、子供をより成長させる貴重な時間のようだ。

最近、ちん君が自分に自信を持っているのを感じることが多くなってきた。
それは、いつも何かに真剣に取り組んでいる表情だ。
6歳の子供とはいえ、
そんなときには、そっと見守っているのがベストだと感じる今日この頃である。

ちなみに、18メートルプールでの潜水完泳を一度成功したちん君。
そのあと、4度挑戦し、全部成功。最後は、クロールで往復し、プールサイドで待っていた父ちゃんに一言、

ちん君: 父ちゃん、シャチみたいに速く泳げてた?

やはり、6歳の子供である。







友情の涙

今度ばかりは「男が泣くな!」
その言葉は出てこなかった。

6歳5ヶ月のちん君が、泣いた。
我慢したけど、最後の最後に、
エレベーターの扉がしまったら涙があふれ出た。

ヨウチン君との「さよなら」の北京の夜は雨だった。

3歳8ヶ月のちん君。
北京現地幼稚園には、もう一人だけ日本のお友達がいた。
それが、半年年下のヨウチン君だった。
中国語どころか、互いに日本語の会話もまともにできなかった。
でも、ヨウチン君がいたから、がんばれた。

引越した後も、互いに同じチーミン双語幼稚園に通った。
園舎こそ別だが、園で勉強していることは同じ。同じ先生から習うこともあった。
時々会っては、同じチーミンズという思いがあった。

互いに4つ違いの妹も生まれた。
あまりにもよく似た環境で、育っていた。

いつの間にか、日本語どころか、中国語でも会話ができる“老朋友”になっていた。

そのヨウチン君が、父ちゃんの仕事の都合で、日本に帰国となった。
最後の夜は、2家族一緒に北京ダックを食べ、マッサージ屋さんにも行った。

雨の中、タクシーに乗ったヨウチン君を見送った。
ヨウチン君の父ちゃんはサーファーだ。
きっと、ヨウチン君もサーフィンをするだろう。
ちん君は自分の「クイックシルバー」の帽子を、
タクシーの窓越しからヨウチン君に渡した。

「日本に帰っても俺を忘れんな」
「日本でがんばれ。いつか、また会う日まで」

見送った帰りのバスの中でも君は笑っていた。
マンションのエレベーターに乗るまで、ふざけていた。

北京で一緒にがんばってきた一番の親友が、日本に帰った。
6歳の友情。
エレベーターで見せたちん君の涙は、
深い友情があったからこそのものだろう。

「別れがあるから、出会いがあるんだ。ヨウチンは日本でまた1からがんばるんだ。
お前も負けんようにがんばれ。離れていても、『あいつががんばるなら俺もがんばる』。
そう思えるのが本当のマブ達や」

父ちゃんの言葉に、オンオン泣きながらうなずくちん君に、
父ちゃんも心の中で、少しもらい泣きをした。

泣き



6歳の君が、初めて見せた“友情の涙”だった。
翌朝、笑顔で元気な声で「おはよう」とあいさつした君が、
昨日よりも少し成長したような気がした父ちゃんだった。