親子〜おやじの子育て in Beijing〜

3度目のクリスマス。初めてのクリスマス


 24日、我が家に高さ1.5mの真っ白なクリスマスツリーを飾った。チンが幼稚園から帰ってくる前に、市場へ急いで買いに行き、部屋にセットした。チンの驚き、喜ぶ顔を想像しながら、父ちゃんは必死に飾りつけをした。

 ピンク、青、緑、黄色の電飾の光が白いツリーをフワリと染める。赤い花や金色の花、松ぼっくりに小さなプレゼントの小箱が光の中に浮かんでいる。緑色の大きな靴下、赤色の小さな靴下をツリーの下に並べた。全部で186元(3000円弱)の予算で用意した、ささやかなお祭りの準備。

 5歳のチンは、クリスマスツリーを知らない。なぜなら、北京に来てからは、一度もクリスマスをお祝いしたことがなかったからだ。
 
 幼稚園から帰ってきたチンをマンションの玄関まで迎えに行く。
 「今年のチンは、サッカーも幼稚園もがんばっとったから、サンタさん、クリスマスツリーを部屋に用意してくれてるかもしれへんで」と父ちゃん。
 「ほんまに!ほんまに!」と声を大きくするチン。
 
 チンは父ちゃんから鍵を受け取り、玄関のドアを自分で開けた。真っ暗な部屋に、さっき設置したばかりのツリーが浮かび上がっている。
 
 「ツリーがある。ツリーがある。ほら、見て、見て」。くりくりの目をさらにまん丸にするチン。

 アーチャオもチンにつられて、大はしゃぎだ。
 あとは、明日のあさのプレゼントを待つだけ。
 チンはサンタに手紙を書いた。
 
 ポケモンのカードを下さい。
  サンタクロースさんへ。
             ちん 


 覚えたばかりの字。決して上手じゃないけれど、何度も書き直した跡があるけれど、自分ひとりで書いた手紙。二つ折にして、大きな緑色の靴下の中へ入れた。
 ベッドに入っても、なかなか寝付けないチンだった。

 チンが眠った後、クリスマスツリーの下にはたくさんのプレゼントが並んだ。家族全員へのプレゼント。もちろん、ポケモンのカードもある。靴下の中には、チョコレートやサンザシのお菓子、ミカンなどがいっぱいに入っている。

 25日、朝6時。チンは自分から飛び起きて、ツリーの下に駆け寄っていった。
 1分か、2分かはわからない。まだ、ベッドで寝たふりしている父ちゃんの耳には、チンの声も、プレゼントを開く音も聞こえてこない。「どうしたんだろう?」

 しばらくして、「タタタタタ」。寝室に駆けてくるチンの足音。
 「父ちゃん、来たよ、来たよ。あるよ。あるよ。いっぱいある」。チンの喜ぶ大きな声が、ジンジンと心に響いてくる。チンはどんな顔で、どんな思いでツリーの下に並んだプレゼントを、しばらく眺めていたんだろうか。

 北京に来て3度目のクリスマス。でも、初めてのクリスマスは、こうして迎えることができた。去年も、おととしも、北京でのクリスマスを楽しむ余裕は、我が家の生活にはなかった。お金の余裕がなかったわけではない。「精神的な余裕」がなかった。これからの生活のこと、将来がなかなか見えてこなくて、父ちゃんは毎日が目いっぱいだった。そして、クリスマスを家族で楽しむ。ただ、それだけのことができなかった。

xmastree2007

 日本にいたころの父ちゃんは、クリスマスに何の意義も楽しみも持っていなかった。「仏教徒の俺には関係ない」ぐらいにしか考えていなかった。だけど、今年のクリスマスは特別だった。日本での何もかもを捨てて、スーツケース2つで北京にやってきた。そこから2年10ヶ月。やっと、チンやアーチャオに、ささやかなクリスマスをプレゼントできた。

 クリスマス・イブを中国語では“平安夜”と訳す。本当に心が平安な夜だった。

 昨晩玄関ドアを開けたときのチンの表情。今朝ベッドの上で聞いたチンの足音と声。父ちゃんには一生忘れられないプレゼントになった。北京3度目のクリスマス、初めてのクリスマス。父ちゃんにもサンタクロースはやってきた。