大声で言いたい気持ちになるのだが、グッとこらえて、
父ちゃん:シッー、静かにしよ。どーしたん?
アーチャオ:う"あ"ーーーんんん、うわー
日本語表記できない音で叫ぶ。叫び続ける。目はこちらをしっかりと見ている。
思い通りにならないことがあると、親の忍耐力に挑戦してくる、それが2歳児。
(こいつー、試してやがる。くそぉー)
怒りたいが、怒れない。
こんなことは日常茶飯事。
我が家での事件。
父ちゃんが過ちを犯した。
きっかけは、お洋服。
お出かけ前だった。
グレーのスカートの下にギャザーのついた淡い紺色のスパッツが一体となったパンツ。
そして上は花柄の白のタンクトップ。
父ちゃんが悩みに悩み、女の子らしさを意識して選んだ服だったが、
アーチャオは、気に入らなかった。
アーチャオは、洗濯したばかりの濡れた赤いTシャツを着ると言い張ってきた。
父ちゃん:濡れてるやんか。着られへんよ。お出かけやし、おしゃれしようね。
アーチャオ:いやや。
父ちゃん:赤もええけど、こっちのほうがかわいいよ。赤色は濡れてるし、風邪引くしな。な、な。
アーチャオ:だめっ!
父ちゃん:それはわがままや。あかんなー。時間ないし、はよ着替えよか。
アーチャオ:うわーん。パパ、メッ、メッしたー。ママー。うわーん。
(おい、おい、おい。何にも怒ってへんやんけー)
父ちゃん:おっしゃ、わかった。ほな、赤色着てみ。
洗濯機で脱水したばかりの濡れた赤いTシャツを着せる。
(これで、わかるやろ。濡れたTシャツなんて気持ち悪いってことが)
アーチャオの顔が曇る。当たり前だが、気持ち悪いらしい。
父ちゃん:これでええんか?はよ、脱ごな。
手を伸ばした瞬間、
アーチャオ:うん。ええ。これ。
アーチャオの目は挑戦的に父ちゃんを見ている。そして、笑った。
ブチブチ!頭の血管が音を出している。
心の中で、上の方から悪魔と天使がロープにぶら下がって降りてきた。
2人はささやきかけてきた。
悪魔:おっしゃー、その挑戦受けたろやないかー。
天使:魔の二歳児。生意気盛りや。
悪魔:腹立つやろー。時間がないでー。
天使:大人気ないぞ。我慢我慢。かわいい、娘やろ。
悪魔:困らせたいんや。何言うても、あかんって。
まぶたを閉じる。一呼吸置いて、作り笑いを浮かべて、
父ちゃん:脱ごうね。もういいでしょ。
Tシャツに手をかけると、パチっと払われた。
アーチャオ:いやっ!
ブチッ!
天使のロープが切れて、遠くに落ちていく。
悪魔:もう我慢せんでええ。いけー。
父ちゃん:こらっ、アーチャオ。ええ加減にしなさい!脱ぎ。
アーチャオ:う"あ"ーーーんんん、うわー。いやいや、これ着るっ。
つぎの瞬間、娘の腕をつかみ、シャワー室へ。
シャワー全開で、頭の上からシャワーしていた。
父ちゃん:服濡れてるのがええんやろ。全部濡らしたる。
アーチャオは一瞬笑っていたが、とうとう泣き出した。
「やりすぎよ」。事の顛末を見ていた母ちゃんがやってきた。
アーチャオがウワンウワン泣き叫んでいる。
「ああー」と小さな声が思わず漏れてしまった。
親の虐待。その一線を超えてしまったのかもしれない・・・
自分が怖くなった。
いつもは「かわいい、かわいい」と愛おしんでいる娘なのに・・・。
その日は自己矛盾と嫌悪感にさいなまれた。
いつも思い通りになるはずもない。わかっていることだ。
でも、あの泣き声と、態度と、二歳児が見せる頑固さ。
いくら言葉で言っても聞いてくれない。
「この子は分かっているはず。なんで、困らせるんだ」という思い。
賢い親なら、イライラをコントロールし、うまく子供を誘導もできるのだろうか?
余裕を持って考える時間もなく、大きな泣き声が頭に響く。
世の中の多くの母親が、日々、こうやって子供と向き合っている。
多くの場合、子供は健やかに育っていく。何もなかったかのように。
でも、日本の多くの母親は、闘っている。
子供に挑戦状を叩きつけられ、自分の弱さに向き合い、闘っている。
そんな闘いの一部で、虐待がニュースになっている。
濡れたシャワーと、自分の手を見ながら、これまでに見てきた“幼児虐待のニュース”が頭を巡る。
子育て・・・。
この一件で、再びそのハードさを痛感させられた。
そして、親としての弱さ、未熟さも。
翌日、嫁様にたまらず愚痴をこぼしてしまった。
自分が情けない。親として、ダメダメだ・・・。アーチャオにどうやって謝ろう・・・。
嫁様に励まされるも、情けない思いがどこかで残ってしまった。
そして、昨日も、今日もアーチャオは泣き叫んでいる。
たぶん、明日も泣き叫ぶであろう・・・



